ニンジャスレイヤー第2部の感想

先日、小説版『ニンジャスレイヤー』の12巻めが出たことで、「キョート・ヘル・オン・アース」編、いわゆる第2部が無事に完結しました。Twitterでリアルタイム翻訳連載中のものが第3部なので、ようやく書籍版ももう少しで追いつけるところまできたわけですね(と言っても3部がまた長いわけなんだけど)。

それに合わせて、公式アカウントでは、恒例となっている人気エピソード投票が開催中です。これは第2部を対象として、専用ハッシュタグ#njvotekhoeに好きなエピソードと感想を書こうというもので、これまでも折に触れて行われてきた企画ですが、加筆修正完全版たる書籍が出揃ったことで、ジュブナイルめいた長大な連作である第2部を、読者の視点からあらためて俯瞰できるようになりました。やっぱ他の人の感想を読むのがおもしろい。

第2部とは

ニンジャスレイヤーという作品は、基本的には1話完結の読み切り作品になっていて、それぞれのエピソードでフォーカスされる主人公や登場人物、舞台、テーマも毎回違います。書籍に掲載されるお話の時系列もバラバラ。それが連なることによって、大きな奔流とも言えるストーリー、テーマが浮かび上がるという構成になっています。

第2部は、おおよそ40話あまりのエピソードからなり、書籍で言うと計8冊分。第1部の「ネオサイタマ炎上」が4冊なので、単純に倍のボリュームです。その主な舞台は「キョート」。作中のキョートは日本から独立した共和国で、その地下には、逆円錐型に連なる巨大都市、貧富が厳しく階層化されたディストピア「アンダーガイオン(≒祇園)」が形成されているという設定です。
忍殺というとよく話のネタにされる「ネオサイタマ」も出てきますが、あくまで話はここキョートを中心に展開するのが第2部の特徴。ちなみに、ニンジャスレイヤーはネオサイタマからキョートまで新幹線で移動します。

お話的には、シンプルに直線的なダークヒーロー復讐劇であった1部に対して、2部では謎解き、アドベンチャーのようにして、だんだんと敵の正体や目的が見えてくるという作り。その象徴的なサブキャラクターが、タカギ・ガンドーという壮年の私立探偵です。彼はニンジャではない一介の市民で、しかもZBR(ズバリ)という薬物に溺れすべてを失う直前にまで追いやられた、落ち目の探偵なのですが、ニンジャスレイヤーとの出会いによって、また彼自身の過酷な運命と直面することによって、劇的な再起を果たします。これがまず、一番の見どころ。

もちろん、第2部でもニンジャスレイヤーはニンジャを殺しまくります。ニンジャスレイヤーことフジキド・ケンジの妻子の仇は、実は第1部で滅ぼした組織「ソウカイヤ」のニンジャだけではなかった、というのがその理由。マルノウチ・スゴイタカイビルで起こったニンジャによる市民の大量虐殺は、ネオサイタマの「ソウカイヤ」、キョートの「ザイバツ・シャドーギルド」との間で起こった、ニンジャ同士の血で血を洗う抗争の結果だった。その事実をガンドーとともに逆に辿って行くうち、キョートで起こっている陰謀、そしてその首謀者「ロード・オブ・ザイバツ」に立ち向かうことになる。

一方で、こういったシリアスな筋書きのなかにも、ユーモラスで魅力的なキャラクターが多数登場するのが2部の特徴です。代表的なのがシルバーキーというキャラ。彼はキョートで鍼灸師を営む普通の気のいい兄ちゃんだったのですが、ある日ニンジャソウルに憑依されたことで、他者の心の中に潜航する特殊能力を身につける。これがいい感じのお調子者で、彼がこの2部を相当に引っ掻き回してくれます。

ついでに言うと、このシルバーキー関連のエピソードでもそうなんだけど、2部ではネットワーク上の仮想世界がより詳細に描かれていて、忍殺の世界におけるSF的な骨組みをより強固なものにしています。
作中では、ごく一部の優れたハッカーだけが知覚することのできる電子的超越世界「コトダマ空間」と、魂あるいは自我の在り処であるところの心象世界が、同一のものとして描かれる。つまり、ネットワークとは、IPアドレスとは、データとはという表現を掘り下げるたびに、魂とは、自我とは、死とはいう哲学的な問いに直結する構造になっているのです(これは3部でより明らかになります)。とあるエピソードにおいてハッカー、ナンシー・リーが言う「ネットワークとは何?いつからある?」というセリフが象徴的でした。

他にも、好きなキャラでいうと、ネオ・カブキチョで店を構えるオカマのニンジャ、中2病をこじらせて暗黒面に堕ちてしまう少年ニンジャ、立派な修行僧なのにニンジャソウルに憑依され苦悩するニンジャなんかもいます。

私の5票

いま、ニンジャスレイヤーにハマりすぎてTwitterサブアカウント(@epxstudio_nj)も持っているのですが、そちらで今回の第2部エピソード投票企画に投じた5票分のエピソードが、次に挙げるものです。レギュレーションで5票までということになっているので絞ってはみたものの、正直他にもいい話はいっぱいあって、苦渋の選択ではありました。

せっかくなのでここでは、投票時に書いた作品への感想コメントに若干の補足をしつつ、タイトルはTogetter版へリンクを張っておきます。ああそう、大事なこととして、ニンジャスレイヤーという作品は書籍化もされていますが、Twitter上で今もそしておそらく今後も、ほぼ全ての作品を無料で読むことができます。Togetterでもいいし、iOSやAndroidをお使いであれば有志の作ったリーダーアプリが便利です。

初めて読むのであれば、下記の中では「チューブド~」が特におすすめ。

ゲイシャ・カラテ・シンカンセン・アンド・ヘル

忍殺でこのタイトルで面白くないわけがない!ゾンビーニンジャ、ジェノサイドのハードボイルドな活躍を軸に、ニンジャスレイヤー、ザイバツ一味ら多元的に展開する物語構成、爆走する新幹線そのものの目まぐるしく変化する状況、そのなかで翻弄される一般市民の勇気と意地。

チューブド・マグロ・ライフサイクル

ぶっ飛んだ設定がガンガン出てくる一方で、アンダーガイオンの閉塞的でリアルな日常描写は、現代の日本社会の鏡写しのようで。書籍版の結末でのあまりにも繊細な加筆修正には舌を巻いた。ヨロシサン製薬の真実。鹿!テクノ!

リブート、レイヴン

第二部の助演男優賞タカギ・ガンドーのターニングポイントとなる物語。定番SF設定をなぞりつつも、切ないシチュエーションにぐっと来てしまう超名作でした。構成もすごく凝っている。2部の他のエピソードを十分に読んだ後に、ぜひ読んでほしい。

スリー・ダーティー・ニンジャボンド

共闘ヤッター!まさかのニンジャスレイヤー、ジェノサイド、フォレスト・サワタリという3大狂人の夢の共闘編。書籍版のわらいなく先生の見開き挿絵には大興奮しました。終わりかたがまたいいんだ。ぜひいつか映画化を実現してほしいエピソードのひとつ。

ウェイティング・フォー・マイ・ニンジャ

第2部は、張り巡らされた伏線が網目のように交錯して、その交点で展開するこういうファンサービス的なエピソードが醍醐味だと思うのです。すべてのキャラクターが生き生きしていて、ふふってなる。

そのほか、2部のエピソード一覧はWiki(エピソード一覧/第2部 – ニンジャスレイヤー Wiki*)を。

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