全4巻の最終巻が1月に発売されていたのを見落としていて、昨日ようやく買うことができた。っていうか今、よほど売れているタイトルでない限り、一度新刊を買い逃すと書店で見つけるのは大変なんですね。同じビームコミックスでも、扱いの差が激しい。これ、長い目で見たら出版社にとっても書店にとっても良くないと思うんだけどなあ。
ともあれ、『星屑ニーナ』です。5年かかってやっと完結したそうで、おめでとうございます。福島聡さん、私は一番好きな漫画家で、単行本化されているものはほぼ全作買って読んでいて、この作品も『Fellows!』で連載が始まった当初から追いかけていた。初回はなんだか、同日に分冊で出た雑誌の両方だかに掲載されていて、普段は単行本派なのにどっちも買った記憶があります。
前作『機動旅団八福神』はたいへんな大作で、全10巻、徹底的に描き込まれた絵と重厚なストーリー、戦争、生と死、それでいてどことなくコミカルな福島漫画の集大成と言えるものでした。この最終巻にはいたく感激して、それは5年前に書いた通りなのですが(機動旅団八福神(10) | EPX studio blog)、この次に何を描くんだろうと思ったら…ものすごくポップな作品が出てきてびっくりしました。
そう、台詞回しやオノマトペが独特でユーモラスとはいえ、ここまでの福島作品は基本はシリアスな作品が多くて、何なら暴力的だったりグロテスクなシーンも出てきたりして、様々な意味で「重い」のが特徴でした。それも例えば、ビジュアル・ショックとしてのバイオレンス(ナントカの巨人とか)の対極にあるものとして、漫画表現におけるリアリズムの追求というか、作家性の表れとして用いられるバイオレンスという点で、比較的そういったものが苦手な自分でも受けいれられるような類のもの。それが魅力で。
ただ、今回の『星屑ニーナ』はそういった表現にいっさい蓋をした、ある意味で新境地といえるほどのポップなSF作品でした…表面上は。
ロボットの少年「星屑」と、ひたすら破天荒な女子高生「ニーナ」が出会う。けれど、乾電池さえあれば半永久的に動けるロボットに対して、人間には寿命がある。お話はあっという間にどんどん進んで、ニーナが死んだずっと後の世でニーナはどう語られるのか、星屑は誰と出会って、なにを学ぶのか。そして、ある理由で時間を繰り返したり、遡ったりもする中で、最終的に星屑とニーナはどういう関係性になっていくのか、というのが大まかなあらすじ。
コミカルな表現のなかに、ある通底したテーマがあるのがだんだんと分かってきて、それというのが、星屑を取り巻く人間たちの様々な愛の形なんですよね。というと、ベタに聞こえてしまうかもしれないけれど、つまりはロボットが愛を学ぶ作品なのでした。ただ思ったのは、これだけストレートなテーマだと余計に作家の個性が際立つなあということ。
『少年少女』のころから猛烈に絵が上手かったんだけど、本作ではそれが極まっていて、背景などの描写の緻密さもそうだし、何よりキャラが生き生きしていてかわいい。女の子だけじゃなくて、どうしようもない男とか、ダメなおっさんとか異常に個性的なお爺さんとか、みんな「人間らしくてかわいい」のです。
途中、ほんとどこまで行くのか、終わりがないような所へ連れて行かれそうになりましたが、きちんと着地します。そして最後はやっぱり、福島さんの漫画だなあという。
以前のコミックナタリーの特集記事が素晴らしいボリュームで、おすすめです。
コミックナタリー – [Power Push] 福島聡「星屑ニーナ」 (1/5)
http://natalie.mu/comic/pp/fukushimasatoshi