ニンジャサウンド・ギターサンダーボルト

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“小説”のライブ!

コミティア前日の22日夜、とあるライブイベントに行ってきました。このライブに行けるように無理して原稿を頑張ったみたいなところもあって、つまりは大変楽しみにしていたのです。それが、小説『ニンジャスレイヤー』のライブ、題して「ニンジャサウンド・ギターサンダーボルト」。

まず、ふつう”小説”のライブというところからして説明が必要だと思うんだけど、現在出版されている書籍11巻のうち、いくつかの特装版に付属しているオーディオドラマというのがあって、そこで使用されている楽曲のサウンドトラックCDが最近出たのです(最新刊の特装版に同梱)。で、そのサントラCDのTwitter上での同時再生実況イベントなどがあって、にわかに盛り上がってきたところ、急遽10月27日に公式から発表されたのがこのライブイベント。この時点でライブ当日まで1ヶ月を切っており、しかも、ニンジャスレイヤーに関しては公式が主催するファン参加型の単独イベントが史上初ということもあって、いつもながら翻訳チームによる唐突な発表にTL界隈は騒然としました。

今回は、場所が恵比寿のライブハウス「LIVE GATE」というキャパ300くらいの小バコで、案の定チケットも5分足らずで売り切れてしまったのですが、私は運良く(というか秒単位で発売開始時刻を確認しつつ、繋がらないサイトと戦った結果)チケットを取ることができました。
これについては色々と思うところもあって、昨今のニンジャスレイヤー人気を鑑みると、この規模のハコに収まらないのは自明のことだし、ましてやこれまでも有志によるDJ・ライブイベントが自発的に企画されるほどの熱量のなかで、参加できないヘッズたちの無念さたるや。Ustreamによる中継も提供されたとはいえ、やっぱりね。一方、企画側としては当然小規模なものから実績を積み上げていく必要があるのだろうし、突貫でもまず一回やってみようというスピード感は支持できる。悩ましいところです。

開場から開演まで

で、当日。会場のLIVE GATE(奇しくも忍殺では「シックスゲイツ」「ゲイトキーパー」「ヘルゲート」「オヒガン・ゲート」「トリイ・ゲート」「ゲート、ゲート、パラゲート…」などなど連想できる用語がたくさんあるのですが)に会場20分前くらいに着くと、既に何人か。チケットの整理番号順に並ぶよう誘導される。お客さんの男女比は男性のほうがすこし多いくらいで、未成年NGとはいえ、年齢層もおそらく多少の開きがありそう。状況が状況なので、仲間内で集ってというのもそう多くなく、路上に静かに漂う熱気…ニンジャアトモスフィア。
開場が予定より押しているというのをTwitterの翻訳チームのツイートで知り、続々伝えられる怪しげな会場内の情報にザワザワする。既にライブ感が。

しばらくして列が進み、順に中に入るとやはりそこは小バコ。黒い壁に赤の内装で、さっそく雰囲気が出ている。ステージサイドは映像用のスクリーンが下がっていて、対面にバーカン。回ってきたカクテルのメニューを見てまず笑ったのが、44種類のドリンクに全部ニンジャネームがついている!翻訳チームが仕込んだらしく、どれも本編を読んでいたらニヤニヤしてしまう絶妙なセレクト。残念ながらカウンターが混み混みで注文できる感じではなかったので、ひとまずパスして最前を確保する形で開演を待ちました。

客入りは最終的に何人くらいだったのか、身動き取れないほどというわけでもなく、おおよそ満員の感じ。見渡すとオリジナルのマスクなりメンポを装着したヘッズの方もちらほら。なかでもiPhoneアプリ「NJRecalls」かいはつチーム=サンの自作サイバーサングラスが目立っていました(超かっこよかった)。
開演を待つあいだ、フロアの非常灯に赤いセロファンが被さって人型のアイコンが赤黒になっているのを目ざとく見つけたヘッズがいて、「アイエエエ!」「コワイ!」みたいにNRSが連鎖していったのがヤバかった。

さて、何度か普通の声で諸注意のアナウンスがあったあと、オーディオドラマのニンジャスレイヤー(森川智之さん)の録りおろし?のアイサツでスタート。まずはYouTubeで公開されているPV第1弾第2弾が流れて早速の大盛り上がり。冒頭ロゴの「アイエエエ!」に大勢のヘッズのシャウトが重なる研修されっぷり。みんなすごいな!
それから『カタナ・ソード・アンド・オイラン・ソーサリー』の「ほとんど違法行為」の部分までが流れる。これ、EDMっぽく作っているだけあって、スクリーンでライブハウスの音響で聴くとかなり臨場感がある。カワイイヤッター!

第1部 DJ

PVの上映が終わり、スクリーンが上がると、舞台前面には何もなく後方はシートで覆われていて、上手にCDJとミキサー、Macを備えたDJブース。その奥で忍殺メンポを装着し、両手を合わせてアイサツの姿勢を取るDJあり。あれっ、顔が半分隠れていて定かではないけれど、あの佇まいどこかで…しかしいや、まさかと思いつつ、ニンジャスレイヤー楽曲から冒頭の繋ぎですぐに判ってしまいました。Q’Heyさんだ!

実を言うと、私はQ’Heyさんがごく最近njslyrアカウントをフォローしたのに気が付いていて、でも理由というか繋がりがさっぱり分からなかったのですが、こういうことだったのかと。ご存じのないヘッズの方へ説明すると、Q’Heyさんって東京で最古参の「Reboot」というテクノパーティーを16年にわたって主宰している、ザイバツで言えば間違いなくグランドマスター位階のDJニンジャなんですよ。考えてみれば、テクノをはじめとするダンスミュージックやクラブ描写に深い理解のあるニンジャスレイヤーのイベントで、ギターやロックにも造詣が深く、無類の特撮や怪獣好きで知られるQ’HeyさんがオープニングDJ起用されるというのは、これ以上ないキャスティングなわけです。
それにしたって、こんな小バコのカルト的な重篤読者の集まり(!)に、まさか自分にとって90年代からのテクノヒーローが出演すると思わないじゃないですか。しかも、がっつりニンジャスレイヤーの文法を分かってくださって。いやーなんというか、今年一番のサプライズでした。

選曲としては、序盤からRebootばりの重いテクノで畳み掛け、随所に積極的にサントラの楽曲を挟みつつ、中盤以降はブレイクビーツやロックなど4つ打ち以外のトラックも多めに。今回、演者どころかライブの構成も事前に一切明らかにされないなかで、幕が上がってのオープニングがいきなりガチのテクノだったので、お客さんも初めは戸惑っているようでした。ただ、それも進むにつれてだんだんと熱気が温まっていくのが分かった。最後に再び「ナラク・ウィズイン」に戻ってきて、盛況のうちに第1部が終了。フロアに向かってアイサツをして、舞台をハケていくQ’Heyさん。最後までサービスに徹していました。オツカレサマドスエ!

MCとトークゲスト

ここで幕間にMCのラビット・ロンさんが登場。主にPVのプロデュースやCG制作でニンジャスレイヤー・プロジェクトに参加されている方だそうです。まず、セガとナムコの音ゲーに関するコラボ企画がスクリーンで紹介されたあと、シークレットゲストの呼び込みがあって、それがなんと、オーディオドラマでヤモト・コキとシルバーカラスを演じた、声優の雨宮天さんと藤原啓治さんのお2人!ゲストありとは予告されていたものの、予想以上のビッグゲストの登場に沸き立つヘッズたち。みんなあの「スワン・ソング~」の熱演を聞いてるんだもんね、そりゃあそうだ。

トークは15分ほどでしたが、収録に関する裏話などがいろいろ聞けました。特に面白かったのは、藤原さんが収録前にドラマの脚本を読んで、いわゆる「忍殺語」の誤字脱字をひとつひとつ直していたという話。森川さんなども「マルノウチ・スゴイタカイビル」の発音のしかたが分からずにいたら、翻訳チームに「三井住友ビルディング」ばりに読んでください、と言われたとのこと。

途中で、今日のライブにお客さんとして、声優でナッツクラッカー役の拝真之介さんと、エレクトリックイール役の佐々木義人さんも遊びに来ていることが紹介され、騒然となるというできごともありました。なんという奥ゆかしさ。ドラマのエレクトリックイール=サンのサンシタ演技最高なんだよ!
あと終わりのほうで、ヤモッチャンのキャスティングがTRIGGERのアニメでも継続なのかと匂わせるヘッズに対し、頑なに口を割らないラビット・ロンさんが面白かった。そりゃ言えないですよね。

ところで、会場でこの声優さんのトークショーが開催されている時間帯は、諸般の事情でUstreamによる中継は中断していたそうです。あとで知りましたが、その間、同じCM映像が8回も繰り返されていたとのこと!こんなの普通ならブーイングの嵐だと思うんだけど、いつもながらそれに対する翻訳チームのツイートによる舵取りが絶妙なのと、ヘッズの飲み込みの早さに、あとから#njslyrタグを追いかけて心底感心してしまいました。このCM映像、生放送限定とのことで、会場組の自分はいまだに見ることができなくて、うらやましい。詳しい経緯は、例によってTogetterにまとめられています。

【実況】ニンジャサウンド・ギターサンダーボルト #0 第二部 – Togetterまとめ
http://togetter.com/li/748464

第2部 ライブ

いよいよ、メインのライブセクション。再びスクリーンが上がって現れたのは、第1部では覆い隠されていたステージ後方の威圧的な和太鼓ドラムセット。ギター、三味線、尺八、そしてサポートDJとして再度参加のQ’Heyさんらプレイヤーのセッティングが完了し、ラビット・ロンさんのMCで始まった1曲目はもちろん、ニンジャスレイヤーがニンジャを殺すときに流れる曲!

メンバーについては、チケット上でも「OMURA・Entertainment Inc. Music Division」とされ、最後まで公式に紹介がなかったのですが、Twitterからの情報を総合すると下記のようです(敬称略)。このうちで三味線と太鼓奏者の方は、サントラ収録時のメンバーでもあるようですね。

  • ギター: PANTHER
  • 三味線: -KIJI-
  • 尺八: 平野透山
  • 太鼓: 茂戸藤浩司
  • DJ: Q’Hey

また、後述するファミ通.comのライブレポートによれば、セットリストは以下。

  1. プレリュード・ゼン~ニンジャスレイヤー ナラク・ウィズイン
  2. エッジ・オブ・ザ・ストラグル
  3. ドラゴン・インストラクション
  4. ア・ガール・フロム・キョート・リパブリック ReMix ver.
  5. デス・リーパー666km/h
  6. ゴジュッポ・ヒャッポ
  7. トドメオサセ
  8. ラスト・ガール・スタンディング
  9. (アンコール)ニンジャスレイヤー ナラク・ウィズイン

収録時と同じ編成によるライブセットというわけではなく、オケとソロプレイヤーのセッションという感じでした。楽曲自体がニンジャスレイヤーの世界観に合致していてカッコイイのはもちろん、それぞれのプレイヤーに見せ場があって、ステージングも熱かった。

2曲目までハイテンションで盛り上がって、3曲目のドラゴン・センセイの尺八ソロでしんみり、ヤモッチャンのテーマはDJソロによるミックス。デス・リーパーはぜひオリジナルのツーバスでも聴きたかったけれど、ギターのPANTHERさんのパフォーマンスもカッコ良かったし、タイキストの超絶乱打に圧倒されたのでこれはこれで。ゴジュッポ・ヒャッポからのトドメオサセでまたギアが一段上がる感じで、最後のラスト・ガールまであっという間。
いったんメンバーが下手にハケたあと、ヘッズの「オームーラ!オームーラ!」のアンコールで再びのナラク・ウィズイン。全25曲収録のサントラからはキャッチーな曲のみの抜粋という形でしたが、ひと通りは演ってくれて物足りない感じはまったくなかったです。ステージとフロアの近さについても、小バコならではの一体感が感じられて、最後まで楽しかった。なんとも言えない余韻を残しつつ、ライブは21時半前には無事終演。いやーすごかったね。

「#1」に向けて

でその終演直後、翻訳チームから出たアナウンスがこれ。今回は#0だったのか!

ニンジャサウンド・ギターサンダーボルト #0 完。 #1 に是非続きたい。ビガーヴェニュー!フルセット!我々は今回のパワに確信!
— Ninja Slayer (@NJSLYR) 2014, 11月 22

まあおそらく、いろんな意味で突貫だったのは想像に難くなく、PANTHERさんは前日リハまでに急遽ブッキングされたようだし、言ってみれば需要の大きさに対してこれだけの規模でとりあえず実現に漕ぎつけたというのは、企画側にとっても本意ではない…というか「行かれぬから」だったヘッズに対しても、「#1にしたくない」部分はあるのだと思います。

なので、上のツイートでも言及されているけど、大きいハコで、フルセットのバンドでというのはぜひ次は実現してほしいところです。付け加えるなら、重篤ヘッズによるVJなんかがあったらもっと盛り上がると思うんだ。本編の台詞が文字でバーッと流れるとか、やっぱインストのライブだけに、テキストの持つパワとの相乗効果でカラテにカラテをかけて100倍だ。

物理的に一箇所に集ってニンジャスレイヤーコンテンツで盛り上がるというのは、有志によるイベント「ニンジャ万博」でも体験済みの通りで、TL上の実況イベント以上に間違いなく楽しい。機会があれば、公式非公式問わず、こういうイベントが増えるといいなと思います。

思っていた以上に長々と書いてしまいました。簡潔なレポと写真はファミ通.comで。

『ニンジャスレイヤー』のライブイベントが開催、人気アーケードゲームなどとのコラボ企画が続々発表! – ファミ通.com
http://www.famitsu.com/news/201411/22066347.html

福島聡『星屑ニーナ』

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全4巻の最終巻が1月に発売されていたのを見落としていて、昨日ようやく買うことができた。っていうか今、よほど売れているタイトルでない限り、一度新刊を買い逃すと書店で見つけるのは大変なんですね。同じビームコミックスでも、扱いの差が激しい。これ、長い目で見たら出版社にとっても書店にとっても良くないと思うんだけどなあ。

ともあれ、『星屑ニーナ』です。5年かかってやっと完結したそうで、おめでとうございます。福島聡さん、私は一番好きな漫画家で、単行本化されているものはほぼ全作買って読んでいて、この作品も『Fellows!』で連載が始まった当初から追いかけていた。初回はなんだか、同日に分冊で出た雑誌の両方だかに掲載されていて、普段は単行本派なのにどっちも買った記憶があります。

前作『機動旅団八福神』はたいへんな大作で、全10巻、徹底的に描き込まれた絵と重厚なストーリー、戦争、生と死、それでいてどことなくコミカルな福島漫画の集大成と言えるものでした。この最終巻にはいたく感激して、それは5年前に書いた通りなのですが(機動旅団八福神(10) | EPX studio blog)、この次に何を描くんだろうと思ったら…ものすごくポップな作品が出てきてびっくりしました。

そう、台詞回しやオノマトペが独特でユーモラスとはいえ、ここまでの福島作品は基本はシリアスな作品が多くて、何なら暴力的だったりグロテスクなシーンも出てきたりして、様々な意味で「重い」のが特徴でした。それも例えば、ビジュアル・ショックとしてのバイオレンス(ナントカの巨人とか)の対極にあるものとして、漫画表現におけるリアリズムの追求というか、作家性の表れとして用いられるバイオレンスという点で、比較的そういったものが苦手な自分でも受けいれられるような類のもの。それが魅力で。
ただ、今回の『星屑ニーナ』はそういった表現にいっさい蓋をした、ある意味で新境地といえるほどのポップなSF作品でした…表面上は。

ロボットの少年「星屑」と、ひたすら破天荒な女子高生「ニーナ」が出会う。けれど、乾電池さえあれば半永久的に動けるロボットに対して、人間には寿命がある。お話はあっという間にどんどん進んで、ニーナが死んだずっと後の世でニーナはどう語られるのか、星屑は誰と出会って、なにを学ぶのか。そして、ある理由で時間を繰り返したり、遡ったりもする中で、最終的に星屑とニーナはどういう関係性になっていくのか、というのが大まかなあらすじ。

コミカルな表現のなかに、ある通底したテーマがあるのがだんだんと分かってきて、それというのが、星屑を取り巻く人間たちの様々な愛の形なんですよね。というと、ベタに聞こえてしまうかもしれないけれど、つまりはロボットが愛を学ぶ作品なのでした。ただ思ったのは、これだけストレートなテーマだと余計に作家の個性が際立つなあということ。

『少年少女』のころから猛烈に絵が上手かったんだけど、本作ではそれが極まっていて、背景などの描写の緻密さもそうだし、何よりキャラが生き生きしていてかわいい。女の子だけじゃなくて、どうしようもない男とか、ダメなおっさんとか異常に個性的なお爺さんとか、みんな「人間らしくてかわいい」のです。

途中、ほんとどこまで行くのか、終わりがないような所へ連れて行かれそうになりましたが、きちんと着地します。そして最後はやっぱり、福島さんの漫画だなあという。

以前のコミックナタリーの特集記事が素晴らしいボリュームで、おすすめです。

コミックナタリー – [Power Push] 福島聡「星屑ニーナ」 (1/5)
http://natalie.mu/comic/pp/fukushimasatoshi

『ニンジャスレイヤー』にハマる

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今年に入ってから、友人に薦められた映画、アニメ、マンガなど目新しい作品には積極的にトライするようにしていて、特に気に入ったものはなるべくこのブログに書くようにしているんですが、2月からずーっとハマり続けていて、いまだに触れていない作品があります。それが、小説『ニンジャスレイヤー』。もう11月だし、さすがにそろそろ、これについて書かないわけにいかない。

元はといえば、izさんに半ば強引に薦められる形でいただいてしまった、書籍の1、2巻を読んだことがきっかけでした。これで続きが気になって、本屋に当時の最新刊の3巻を買いに行き、それも速攻で読み終わってしまって、Web連載分をAndroidアプリでひたすら追っていって。完結している第1部と第2部、連載中の第3部のリアルタイム更新に追いつくまで、丸2ヶ月。かなりのボリュームだったけれど、1日2エピソードペースで読み進み、そこからずっとハマっています。

当然、隔月ペースで刊行されている物理書籍は全部買っているし、Twitterもなるべくリアルタイムで追っているので、夜に更新があるときなんかは普通に寝不足という。基本、凝り性であることは自覚していますが、1年近く続いているというのは明らかになにか作品自体に惹きつけるものがあるのであって、それが何なのかについては私なりに言語化できる範囲で書いておきたい。

そもそも『ニンジャスレイヤー』とは

近未来の架空の日本の都市、ネオサイタマを舞台にしたサイバーパンクアクション小説です。タイトルのニンジャスレイヤー(Ninja Slayer)は「ニンジャを殺す者」、その名の通りの、アメコミ的なダークヒーローを主人公とした作品。各話読み切りの連作小説で、原作者はブラッドレー・ボンド(Bradley Bond)とフィリップ・ニンジャ・モーゼズ(Philip Ninj@ Morzez)なる米国人、ということになっています。
ということになっている、というのは…これはバレでもなんでもなく自明のことなのですが、どうやらこの2人の原作者は実在しない。綴りで検索してもそれらしい人物の情報がさっぱり出てこないし、だいたい、話を読めば著者が日本のサブカルチャーや雑多な文化に精通しすぎていて、さすがにこれはないだろうという。X68000転じて「ペケロッパ」とかね。私が確信したのは、第1部の『ワン・ミニット・ビフォア・ザ・タヌキ』というエピソードの、あからさまなオチを読んでからですが。

しかし!これがこの作品の最もおもしろいところで、外国人が認識しがちな「ズレた日本」像が、文章のいたるところに仕込まれていて、これ自体が作品のSFサイバーパンク的雰囲気を形成する重要な構成要素になっているのです。元ネタのひとつは、間違いなく『ブレードランナー』。『パシフィック・リム』にも「萌&健太ビデオ」みたいな謎日本語看板がありましたが、意図的にしろそうでないにしろ、いまやSFの文脈でオリエンタリズムを強調するならこの手法は欠かせないですよね。

つまり、似て非なる現代日本像を、街の看板や単語のひとつひとつに至るまで事細かに描くことで、現実とは異なるSF時間軸上の日本を、自然に演出している。雑多なネオン街、サイバースペースに逃避する若者たち、無気力なサラリーマン(作中では「サラリマン」)、巨大企業(「暗黒メガコーポ」)が金と権力を裏で操る社会…文化背景を細かく説明しなくても、日本語の読者には情景がありありと浮かぶ。ここがまず上手い。

そんななかで、明確なフィクションである「ニンジャ」って何なのかという話ですが、これ、読んですぐ分かるのは、「忍者」とはまったく別の概念であるということ。作中において、ニンジャは太古の邪悪な魂として、突如として普通の人間に「憑依」するもので、それによって超人としてのニンジャと、非ニンジャである人間(モータル)との間にドラマが生まれる。
例えば、主人公を巡る大まかなあらすじはこんな感じ。

ニンジャ抗争で妻子を殺されたサラリマン、フジキド・ケンジ。
彼自身も死の淵にあったそのとき、謎のニンジャソウルが憑依。
一命をとりとめたフジキドは「ニンジャスレイヤー」――ニンジャを殺す者となり、復讐の戦いに身を投じる。

近未来都市ネオサイタマを舞台に、
ニンジャスレイヤーvsニンジャの死闘が始まった。

ニンジャスレイヤー 書籍公式サイト | STORY

自身もニンジャでありながら、妻子を殺したニンジャと戦い続けるという、主人公が抱えた本質的な矛盾が本作の主題。ここがまさにダークヒーロー的である所以で、悪いニンジャを殺し妻子の復讐を果たす戦いを着実に進めるなかで、フジキドは自身に架せられた十字架に悩み、ニンジャとは何なのかということ(ニンジャ真実)に迫っていく。そして、ニンジャに振り回されるただの人間(モータル)、あるいは望まずしてニンジャとなってしまった人間の悲哀が、シニカルなタッチで描かれていく。
このあたりの雰囲気は、公式に制作されたPVを観るほうが分かりやすいかも。

前述の通り、本作は単独の短編読み切りエピソードの集合体のため、全てがこのニンジャスレイヤーを中心とした話ではないものの、ほとんどの流れは、起承転結ならぬ「起承忍殺」。お話が始まって、展開して、ものすごい勢いでニンジャスレイヤーが悪いニンジャを殺して、終わるという。言ってしまえばそれだけなのに、実に多様な主題を使って、毎回違うテイストのエピソードが登場する。ボーイミーツガールあり、冒険ものあり、コメディあり、泣ける話あり、SF仮想世界あり、ハードボイルドあり。様々なエンターテイメント作品へのオマージュも多分に含まれているのだろうけど、そのバリエーションの豊富さには脱帽しました。

物語を彩るのが、卓越した造語・言葉選びのセンス。オイランドロイド、クローンヤクザ、合成マイコ音声、バイオスモトリ。基本的に、地の文は情景描写に重きを置いた堅実な文章で、いわゆるラノベ的なセリフの応酬だけで構成されているわけではないにも関わらず、これらの造語自体に世界観が端的に表象されているため、短いセンテンスに膨大な情報量が詰まっている。
たとえば、あるエピソードの冒頭は次のように始まる。

世界全土を電子ネットワークが覆いつくし、サイバネティック技術が普遍化した未来。宇宙殖民など稚気じみた夢。人々は灰色のメガロシティに棲み、夜な夜なサイバースペースへ逃避する。政府よりも力を持つメガコーポ群が、国家を背後から操作する。ここはネオサイタマ。鎖国体制を敷く日本の中心地だ。

一週間前から重金属酸性雨は止み、灰色の雪へと変わっていた。マルノウチ・スゴイタカイ・ビルの最上階展望エリアでは、カチグミたちがトクリを傾けあっている。ビル街には「コケシコタツ」「魅力的な」「少し高いが」などとショドーされた垂れ幕が下がり、街路を行き交う人々の購買意欲を煽っていた。

ネオンサインの洪水を睥睨するように、ヨロシサン製薬のコケシツェッペリンが威圧的に空を飛び、旅客機誘導用ホロトリイ・コリドーの横で大きな旋回を行った。「ビョウキ」「トシヨリ」「ヨロシサン」と流れる無表情なカタカナを、その下腹に抱えた巨大液晶モニタに明滅させながら。

別な二機のマグロツェッペリンは、NSTV社のものだ。片方の大型液晶モニタでは、オイランドロイド・デュオ「ネコネコカワイイ」の2人が、サイバーサングラスで目元を隠しながら歌っている。もう一機のモニタでは、彼女たち二人を模した廉価版オイランドロイドのコマーシャルが流れていた。

第1部『メリークリスマス・ネオサイタマ』#1 1-4より

「マルノウチ・スゴイタカイ・ビル」が何なのか知らなくても、六本木ヒルズのような格差の象徴として描かれていることがありありと分かるし、「ホロトリイ・コリドー」を見たことがなくても、ホログラムの鳥居が伏見稲荷のように連なっている様子が理解できる。連想できるからこそ、高密度な情報を頭のなかですばやくデコードしていくことができる。

そして、ニンジャスレイヤーの文体が最も特徴的に表れるのが、アクション(=カラテ)のシーンです。

サンバーンは掌の火球を叩きつけようと、「イヤーッ!」だがニンジャスレイヤーの左拳がサンバーンの腹部に叩き込まれる!「グワーッ!」掌の火球を叩きつけ「イヤーッ!」右拳が腹部に!「グワーッ!」掌の火球「イヤーッ!」左拳が腹部に!「グワーッ!」掌の……「イヤーッ!」「グワーッ!」

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」

第2部『モータル・ニンジャ・レジスター』#4 31-32より

これだけ見ると、なんだこりゃって感じなんだけど、この極限にミニマルな表現こそが合理的で効果的なことが、読み進めるときっと納得できるはず。もちろん、ここに至る前段階の描写があってこそとはいえ…人知を超えたスピードと迫力を、文章だけでどう表現するかという意味において、かなり尖ったことをやっている。慣れてしまうと、笑えるとかですらなくて、実際にものすごい臨場感を伴って、目の前でカラテが展開されているイメージに浸れるのです。

「ほんやくチーム」の魅力とTwitter戦略

ところで、英語の原作に基づいている(という設定である)以上、翻訳者がいるわけですが、実はこの翻訳チームについても詳細は伏せられています。一応、本兌有・杉ライカの両氏が訳者として書籍などで公開されてはいるものの、この2人の出自も不明。つまり、これだけのスケールと完成度の作品を、いったい誰が書いてるのか(一人なのか複数なのか、これまでにどういう作品があるのか)、まったく分かっていないのです。

しかも、ニンジャスレイヤーはTwitterアカウント(@NJSLYR)上での「リアルタイム翻訳」という特異な形式をとって公開されてきました。エピソードごとに一定のパラグラフに分けて、不定期に連続投稿していくというもの。Twitterアカウントが作成されたのが2010年7月で、そこから淡々と連載を続けてクチコミでフォロワーを増やし、書籍化の刊行が始まったのはここ一年くらいの話。雑誌でもWeb掲載でも同人小説でもなく、こういった形で新しい作品が生まれてくるのが今っぽいと言えます。

翻訳チームは自ら「ほんやくチーム」と称し、本編以上にブロークンな日本語、独特の文体・節回しで、ニンジャスレイヤーの世界をユーモアたっぷりに伝えるのに大いに貢献しています。例えばこれ(ニンジャスレイヤー翻訳チームからのお知らせまとめ – Togetter)を流し読みすれば、普通なら事務的になりがちな作者からの各種お知らせを、半ば冗談めいて(この「~めいて」が既にこの作品に異常に頻出する常套句なのですが)伝える様子が、だいたい分かると思います。

書籍掲載用のイラスト募集の告知、みたいなのもタダでは済まさない。いちいち小噺ふうのストーリーに仕立て上げて、興味を引く(「イラストレーション締め切り探偵ザザ」第16わ「ザザ対2月15日の締切」のまき – Togetter)。
またあるいは、本編を掲載しているのとは別のTwitterアカウントで、徹底して「おふざけ」をしながら、あくまでも物語=コンテンツとして、新刊書籍の告知をする(『メガブーブス ~ロックンロール美獣アニマル~』まとめ(実況なし・色分けVer.) – Togetter)。

加えて、本編の作中において、Twitterならではの仕掛けを取り入れている例もあります。
読み返して、心底上手くできているなと思った短編エピソードが、第3部の『ア・ニュー・デイ・ボーン・ウィズ・ゴールデン・デイズ』。これは、2011年12月31日深夜から翌年1月1日にかけて掲載された作品で、ツイート日時を見てもらえると分かる通り、作中の年越しシーンと現実の時間がキレイに同期しています。私はまだこのときはニンジャスレイヤーを知らなかったので、リアルタイムに読んでいたらどれだけ興奮したことか。

更に、詳しくはネタバレになるので書きませんが、第2部の最終エピソード『キョート・ヘル・オン・アース』のクライマックスでも思わぬ仕掛けで現実とリンクする箇所があり、この演出手法には驚かされました。このエピソードは、現時点でまだ書籍の刊行が追い付いていないため、書籍化でどうなるのか分かりませんが、2部を読み進めるならぜひTwitter版を読んで体験してみてください。

2013年、メディア展開と二次創作

さて、このように徐々に話題になってきた本作、今年になってからはさらに各メディアへの展開が活発化しています。

まず、2ヶ月スパンというハイペースで刊行が進んでいる書籍版。実際のところ、これまでにTwitterで公開されているエピソードの量は膨大なもので、まだまだ書籍向けのリソースは尽きない。4巻に分冊されて発行された第1部は既に完結していて、続く第2部はその倍以上のボリュームで、うち3巻分が既に刊行済み。連載中の第3部は、更にそれを凌ぐボリュームであることが分かっているため、少なくとも来年いっぱいは書籍版がTwitterに追いつくことはないはずです。
両方読んですごいなと思うのは、書籍版ではかなり細部にわたって加筆修正がされていること。ちょっとした表現が直されていたり、あるいは描写の前後が逆転されていたりすることで、確実に文章が洗練されているのが分かります。実際、あの仕事量をこなしている翻訳チームのどこにそんな余裕があるのか、さっぱり分かりません。

そして、書籍版の特典として始まったオーディオドラマ。あの文章をどうやって音声化するのかと思えば、これが意外に違和感のない仕上がりで(まず「イヤーッ!」「グワーッ!」をファンが納得できる形で音声化したのがすごい)、アニメ化の布石かと疑われるのも無理もないという感じです。現在までに、第1部の人気エピソード『ラスト・ガール・スタンディング』を含む3つのエピソードがオーディオドラマ化されており、来月出る新刊でさらに2エピソードがこれに加わることになります。

更には、2系統の公式コミカライズ版。雑誌連載を追う形でTwitterでも公開されていますが、特に余湖裕輝・田畑由秋版の『NINJASLAYER』が、かなり高いレベルで原作の緻密な世界観と狂気を忠実に再現しています。

『NINJASLAYER』(漫画)その1 – Togetter
http://togetter.com/li/523702

一方で、翻訳チームはファンによる二次創作活動も奨励していて、いくつかの同人誌や非公式の関連イベントが開催されているようです。私も、4月に開催された忍殺オンリー「ニンジャ文化祭」のアンソロ本を買いましたが、ファンの入れ込みように圧倒されました。本編をある程度読み進めている人にはおすすめです。

何からどうやって読むか

で、実際に何からどう読めばいいの?という話。これは実は翻訳チームが再三アナウンスしていて、書籍のオビにも書いてある通り、どこから読んでもいいように出来ています。つまり、それぞれは舞台も登場人物も異なる、ほぼ完全に独立した短編エピソードで、最低限説明が必要な事柄は作中で都度示されるため、前提情報は何もいらないということです。
書籍の注釈によれば、本作は「原作者の意思を反映しランダムにカットアップされている」とのこと。翻訳チームは、これを時代劇に喩えて、「水戸黄門を第一話から見ている人はあまりいない」と説明しています。

しかしながら、それぞれのエピソード群を繋ぐ大筋のストーリーはあって、そのまとまりが「第1部」とか「第2部」と言われているものです。ナントカ編、みたいな感じ。

まず第1部「ネオサイタマ炎上」は、主人公であるフジキド・ケンジことニンジャスレイヤーが、ネオサイタマを影で牛耳るニンジャ集団「ソウカイヤ」とそのボス、ラオモト・カンを倒すまで。本作の定型である「ニンジャが出て殺す!」というスタイルが徹底されており、ある種のアメコミ的ダークヒーローものっぽさは、第1部特有のものかもしれません。

第2部「キョート殺伐都市」では、キョートを支配する「ザイバツ・シャドーギルド」との戦いに移る。読み切りであることは変わらないにしろ、中編規模の長いエピソードも増えてきて、ジュブナイル小説のような連作の探索行が描かれます。シリアスな話が多い一方で、ガンドーやシルバーキーなど魅力的なキャラクターが多数登場します。ストーリーの繋がりによって、徐々に謎が解ける構成になっているため、2部は2部でまとめて読むのがおすすめです。

さらに現在進行中の第3部「不滅のニンジャソウル」では、舞台を再びネオサイタマに戻し、ソウカイヤの残党「アマクダリ・セクト」と戦うなかでのニンジャスレイヤーの苦悩が、より具体的に表現されています。物語のバリエーションが一気に広がって、笑えるほうにもシリアスなほうにも、かなりの振れ幅ができました。ある意味、原点に立ち返ったようなところもあるので、3部のエピソードからいきなり読んでもまったく問題ないと思います。

前述のとおり、現時点で書籍化されているのは第2部の半分くらいまで。なので、書籍が手に入るなら書籍が手軽でいいですね。大筋は変わってないとはいえ、内容もリファインされているし。ちょっとかさばる大きさなので、電子書籍版があるといいなと思うんですが、今のところ出ていません。

一方で、もちろん、Twitterで読むこともできます。書籍が出ても、こうした元の無料公開コンテンツを残すことを明言しているのが翻訳チームの偉いなと思うところで、まとめて読むのであれば、有志によるWikiのエピソードリストから辿って、Togetterで読むかたちになります。
ただ、Togetterの画面ではなんとも読みづらいため、ぜひおすすめしたいのがAndroidアプリの「Njslyr Reader」。アプリ側からTogetterのログを取得して、読みやすいように表示する仕組みの、非公式の無料アプリです。何を隠そう、私が全エピソードを後追いで読破できたのもこのアプリのおかげ。レビューの評価の高さを見ても、このアプリでニンジャスレイヤーを読むためにAndroid端末を買うというのも、全然アリだと思いますね。

2014-07-09追記:

補足ですが、今はiOS向けには有志の方によるiPhoneアプリ「NJRecalls」という選択肢もあります。タグ上での実況コメントを交えた表示のしかたが良くできていて、初めて読む方にもおすすめできます。

おすすめエピソード

参考までに、特におすすめのエピソードをいくつか紹介しておきます。

キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー』(Kickout the Ninja Motherfucker)
青春ボーイミーツガール中編。さえない高校生ギンイチと、謎のパンク少女イチジクとの出会いを通じて、モータルの視点でニンジャの狂気が描かれる。書籍1巻に収録されていて、私はこのエピソードでハマりました。ニンジャスレイヤーのいいところは、原則的には勧善懲悪で、いかに絶望的な雰囲気であっても、最後は光をほのめかせて終わるところ。
ラスト・ガール・スタンディング』(Last Girl Standing)
全編を通じて主要な登場人物のひとり、ヤモト・コキの覚醒を描いたエピソード。上記のキックアウト~に続いて、高校生の日常という身近なモチーフを、ネオサイタマ事情に置き換えています。短いながらも濃厚な展開で、クライマックスのニンジャスレイヤー登場シーンも熱い。第1部の敵であるソウカイヤの末端組織の仕組みも垣間見えて、この後に続く話のディテール形成にも貢献している。書籍1巻に収録。オーディオドラマも納得の完成度。
スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェイデッド・クロウ』(Swan Song Sung by a Faded Crow)
前述のヤモト・コキの、その後の自立の過程を描いた短編。出会いと別れを正面から描いた儚いストーリーで、特に最後のシーンが印象に残りました。消えゆくカラスが歌った白鳥の歌、というのは、お話を踏まえると、これ以上ないくらい相応しい、美しいタイトル。ちなみに、ニンジャスレイヤーが登場しないパターン。書籍2巻に収録。
フジ・サン・ライジング』(Fuji Sun Rising)
同じく第1部、書籍2巻より。かなり珍しいロシア人ニンジャ、サボターのカタコトの日本語セリフがお気に入り。ニンジャスレイヤーの変態的な執念も笑えるし、協力者ナンシー・リーの電脳バトルの描写もクール。ハリウッドのB級パニック映画風の痛快エピソード。「イヤーッ!」「パンキ!」「イヤーッ!」「パンキ!」
ゲイシャ・カラテ・シンカンセン・アンド・ヘル』(Geisha, Karate, Shinkansen, and Hell)
第2部。書籍6巻にあたる『ゲイシャ危機一髪!』収録。何と言ってもこのタイトル!面白くないわけがない。ネオサイタマからキョートへ向かう新幹線の車中で、ニンジャスレイヤーを巡って、複数のニンジャが入り乱れる混戦に。テンポよく次々に場面展開する戦闘シーン、いちいち笑いを取りに来る武装新幹線の描写。翻弄されながらも、勇気を振り絞る乗客たちの活躍も見どころあり。
チューブド・マグロ・ライフサイクル』(Tubed Maguro Lifecycle)
第2部より。冒頭の、下層労働者の悲惨な日常描写に共感していると、一気に引き込まれる。哀れな主人公ヨシチュニ(このネーミングセンスもすごい)が連れて行かれた試薬バイトの裏には、恐るべきニンジャ支配階級の陰謀が。ユーモアのなかに、現代社会への風刺をさらっと入れてくるところがニンジャスレイヤーらしい。書籍7巻にあたる『荒野の三忍』に収録。鹿を引き寄せる特定周波数テクノも出てくるよ。
リブート、レイヴン』(Reboot, Raven)
第2部の助演男優とも言える、私立探偵タカギ・ガンドーの人生のある転機、過去との再会と決別を描いた、少し長めの中編。書籍未収録。とにかく助手のシキベ・タカコのキャラクター描写が素晴らしいです。冴えないなりにも一生懸命で、セリフ回しも特徴的な、印象深いキャラ。なんともSF的でドラマチックな結末には、ジーンと来てしまう。
レプリカ・ミッシング・リンク』(Replica Missing Link)
第3部エピソード。ある意味正統派の、SFサイバーパンク・ミステリー。サイバーゴス少女であるユンコ・スズキが、「自分は何者なのか」という謎に迫っていく過程を中心に、目まぐるしくストーリーが展開する。このエピソードをはじめ、ニンジャスレイヤーには度々クラブやDJ文化にまつわるシーンが出てくるんだけど、そのどれもが良い。
フラッシュファイト・ラン・キル・アタック』(Flashfight Run Kill Attack)
第2部の完結を待たずに連載された、第3部の幕開けを描くエピソード。このあたりの前後関係の柔軟さは、本作ならではですね。短くまとまった佳作で、3部の人気キャラクター、エーリアス・ディクタスが、ヘタレなりにニンジャスレイヤーのとあるピンチを救うまでを、リズム良く描く。他のエピソードを読んで、エーリアスの正体や背景について知ると、より奥行きが出て味わい深いお話です。
ファスト・アズ・ライトニング、コールド・アズ・ウインター』(Fast as Lightning, Cold as Winter)
まさかのニンジャ料理バトル!生死を賭けたスシ対決に挑み、ズンビーニンジャの巣窟ツキジ・ダンジョンに潜入するニンジャスレイヤー。クライマックスの対決シーンも、ベタな料理マンガのパロディー満載で笑える。同様にコメディー要素に振り切った作品としては、ニンジャ野球バトル『ノーホーマー・ノーサヴァイヴ』が超おすすめ。
ナイス・クッキング・アット・ザ・ヤクザ・キッチン』(Nice Cooking at the Yakuza-Kitchen)
つい先日連載されたばかりの、わずか73ツイートによる短編エピソード。いかにも出オチなタイトルの反面、ニンジャスレイヤーの世界がコンパクトに凝縮されていて、おすすめできます。か弱い人間であるところのモータルの奮闘、それを容易く絶望に陥れるニンジャ、しかし、さらにそれを覆すニンジャスレイヤーの圧倒的な強さ!最後まで気を抜けない展開、キレイな伏線の回収。忍殺ここにあり、といえる内容です。

『ニンジャスレイヤー』の書籍に関する公式の総合情報はこちらを。

ニンジャスレイヤー書籍公式サイト
http://ninjaslayer.jp/

連載作品のまとめや関連情報は、有志によるWikiが便利です。

ニンジャスレイヤー @ wiki – ニンジャスレイヤーwiki
http://www10.atwiki.jp/njslyr/

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